きよかのブログ

高等遊民を目指します。

2017年上半期読書まとめ②

ザムザから手塚治虫ファム・ファタールに行きます。

 

・恋しくて

著者;村上春樹

きっかけ;生協の本屋で、表紙に惹かれて

感想;この本の真髄は「村上春樹が選んだラブストーリー」というところにあるのではなく、一番最後に彼が書いた「恋するザムザ」にある。恐らく、彼自身も選んでいるうちに書きたくなっちゃったのだろう。とても微笑ましい作品で、読み進めたいと同時に読み終わりたくなかった。私はザムザを、原作のカフカの小説ではなく手塚治虫の短編集『メタモルフォーゼ』を通して知った。その絵の芋虫が強烈で、すっかりそのイメージが頭にこびりついてから原作を読んだので、毒虫の挿絵を一切許さなかったとしているカフカには少し申し訳ない。そう言えばこの作品の日本語の題は「変身」だ。しかし英題では"metamorphosis"であり、"transformation"ではないなと今気がつき、それでは両者の違いはなんだろう。メタモルフォーゼと言えばエッシャーだよなぁ、と連想が止まらない。ちなみにこの『恋しくて』は日本以外の文学作品の寄せ集めなのに表紙に竹久夢二の『黒船屋』を選び、それをこれだけ大幅にトリミングしても認識できるようギリギリのところで攻めている。

恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES

恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES

 
変身 (新潮文庫)

変身 (新潮文庫)

 
メタモルフォーゼ 手塚治虫文庫全集
 
エッシャー: グラフィックワーク NBS-J (ニューベーシック・アート・シリーズ)

エッシャー: グラフィックワーク NBS-J (ニューベーシック・アート・シリーズ)

 
カフカはなぜ自殺しなかったのか?: 弱いからこそわかること

カフカはなぜ自殺しなかったのか?: 弱いからこそわかること

 

↑この本はまだ読んでいないけど読む予定

さらに余談だがプラハにあるカフカ像がなかなか強烈なので、ぜひいつか訪れたい。

 

サロメの乳母の話

著者;塩野七生

きっかけ;Amazon,平野啓一郎新訳の『サロメ』関連書籍から

感想;サロメにも手塚治虫を通して出会った。引用されている『七色いんこ』は手塚の演劇オタクっぷりが随所に見られる作品であり、その大人びた作風が小学生にはいくら何でも早すぎた。題材としてのファム・ファタールは、他にも『人間昆虫記』『奇子』などにも見られる。手塚の描く美女はそれだけで画集ができてしまうほど魅力的で、未だに私たちを惹きつけてやまない(私の中でイチオシは『ドン・ドラキュラ』のチョコラ)。また、ワイルドの『サロメ』はビアズリーの挿絵でも有名だが、手塚からビアズリーへの明らかなオマージュが『MW』だ。倒錯した愛のグロテスクさと見事にマッチしている。『MW』の中のサロメは主人公の結城で、これもまた曲者である。しかし塩野の描くサロメは違う。とても人の運命を弄ぶいたいけな美少女ではなかった、という見方を乳母を通して語らせる。歴史に「もし」はないが、語る人の目線によってこんなにも変わるものかと改めて気づかされる。ちなみに私はサロメという名前のフランス人女性に出会ったが、彼女もなかなかの食わせ者だった。また、今飲んでいるオランジーナのCMに最近起用され始めた「オランジーナ先生」の名前もサロメで驚いた。これからどんなサロメに出逢えるか楽しみだ。

サロメの乳母の話 (新潮文庫)

サロメの乳母の話 (新潮文庫)

 
サロメ (岩波文庫)

サロメ (岩波文庫)

 
サロメ

サロメ

 
サロメ (光文社古典新訳文庫)

サロメ (光文社古典新訳文庫)

 
七色いんこ (1) (秋田文庫―The best story by Osamu Tezuka)

七色いんこ (1) (秋田文庫―The best story by Osamu Tezuka)

 
人間昆虫記 (秋田文庫―The best story by Osamu Tezuka)

人間昆虫記 (秋田文庫―The best story by Osamu Tezuka)

 
奇子 1-2巻セット

奇子 1-2巻セット

 
MW 1

MW 1

 

初めてザムザやサロメに出会ったときは、彼らの本来の姿など知る由もなかった。しかし、最初の出会いにはあまりこだわるべきではないように思う。いつか何かのきっかけで答え合わせができる日が来るかもしれないし、来なくてもそれはそれで良いのである。そもそもイメージが流布しすぎていて答えなどただ私が強調したいのは、なんとなく書店で本を眺めていても、彼らには時間や作品のジャンルを超えて鑑賞者を惹きつけてやまない魅力があるということだ。

 

 ・ヨーロッパの幻想美術-世紀末デカダンスファム・ファタール(宿命の女)たち

著者;海野弘

きっかけ;シリーズ関連著作、生協にて

感想;ファム・ファタールとは?と感じた方にはこの本をおすすめする。と言っても私もこれから読むのだが、著書の既出のシリーズからその完成度の高さ・内容の充実度は保証する(『ロシアの挿絵とおとぎ話の世界』『チェコの挿絵とおとぎ話の世界』『ウィリアム・モリス - クラシカルで美しいパターンとデザイン-』が特に素敵)。表紙は『接吻』で有名なクリムトの『ダナエ』で、これもまたとんでもない。浮気公認(?)ギリシア神話の中でゼウスは美女を誘惑するために様々な姿に変身するが、中でも対ダナエ戦はすごい。「黄金の雨」などと表現されているので美しく聞こえるが要は精子で、その結果見事ペルセウスが誕生する。しかしレイプ被害話になると必ず一人はいるおじさんが言いそうだが、ダナエもダナエで無防備すぎである。この題材でテツィアーノやレンブラントも描いているが、やはりクリムトのものが一番好きだ。そこにはもはやレイプがどうのとかの議論を挟む余地がないほど見とれてしまう静けさと、いやらしくないエロさがある。話が逸れすぎたが海野弘のシリーズは本当におすすめである。扱っているテーマも幅広く装飾も美しい。私はこれらをスキャンするために春休み中家のプリンターを占拠していたのため母からクレームが来た。

ヨーロッパの幻想美術-世紀末デカダンスとファム・ファタール(宿命の女)たち-

ヨーロッパの幻想美術-世紀末デカダンスとファム・ファタール(宿命の女)たち-

 
ロシアの挿絵とおとぎ話の世界

ロシアの挿絵とおとぎ話の世界

 
チェコの挿絵とおとぎ話の世界

チェコの挿絵とおとぎ話の世界

 
ウィリアム・モリス - クラシカルで美しいパターンとデザイン-

ウィリアム・モリス - クラシカルで美しいパターンとデザイン-